書籍の分類について考える
先日、書籍の分類に関して考える機会があったので、記事にしてみる。
書籍の分類は非常に難しく、曖昧なものになりがちだ。そもそも言ってしまえば分類なんてのは後から読者側で行うことで、著者はそんなこと考えていない。しかも、まあよくある話だが、「分ける」と「分かる」は同源であり、つまり分類するには真に理解していないとできないとも言える。だからそんなに真剣に書籍の分類について考える機会は訪れないだろう。大学図書館で資料を探すにしても、OPAC(オンライン書籍目録データベース)とかを使えば目的の本の場所にたどり着けるし。
技術書という分類?
転職活動中に様々な会社の情報を見ていたが、ITエンジニアが所属する会社の多くで書籍購入補助制度だとか、技術書購入支援制度とかそういうのがあるようだ。 そこで気になる問題が発生する。補助の対象となるのは「技術書」とか「IT技術に関する本」とか書かれている。つまり対象外の書籍もあるようなのだ。
さて、果たして「技術書」とは何だろうか。はてなキーワード「技術書」には
技術について解説した書籍の事。
と書いてある。
しかしその本が対象か対象外かを判断する人はその違いをどのように見極めているのだろうか。もしあなたがその判断をする立場だったら、どうするだろうか。
私だったら、国立国会図書館サーチを使う。理由は簡単。以下の通り。
- 権威ある国会図書館が分類した、客観的な情報だから
- 誰でも検索できて確認できるから
会社の制度とするならば、それなりの客観的な根拠があるべきだ。誰でも同じ判断ができることが必要だろう。そのためにはなるべく個人の感覚が入らない方がいい。国会図書館サーチの検索結果にはNDCやNDLCという分類記号があり、これを辿れば何の本として定義されているかがわかる。
その分類に対して、制度適用の可否を会社としてあらかじめ決めておき、示せればよい。
ちなみに、国立国会図書館分類表(NDLC)を見ると、実は「技術書」という括りは存在しない。
技術書≒ITエンジニアが使う本、ITやコンピュータに関わる本ということで考えれば、「科学技術」という大きな括りの中で「M121 サイバネティックス・情報理論」「M151 データ処理・計算機一般」というのがあり、ここが該当するものが多い。
しかし、ITやコンピュータに関わる本のように思えて、「数学書」として分類されているものもある。例えば『プログラマの数学』という本は、数学の本である。機械学習について学べそうな『統計学が最強の学問である[数学編]――データ分析と機械学習のための新しい教科書』という本も「数学書」であった。
その分類に意味はない
さて、ようやく本題だが、その「分類」に意味があるだろうか。
AIの活用、機械学習、深層学習、自然言語処理、こういったものが流行となる昨今では、エンジニアがコンピュータやネットワークの仕組み、プログラミング言語についてだけ学べばよいとは言えなくなっている。そんな中、数学の本は対象外、言語学に関する本は対象外…などとすることに意味があるとは思えない。
書籍購入補助制度とは、どういう目的があって行っている制度なのか。「技術書に限る」などとすることにどういう意味があるのか。対象書籍の制限があるなら、自社のエンジニアにどう成長してほしいのかという会社の考えが読み取れるだろう。逆に、もし「技術にかかわる書籍」などと曖昧にしておきながら、申請を否認されるようであれば、そもそもスキルアップを支援するつもりはないだろう。もはや労働者募集の手段でしかないのだと諦めるべきかもしれない。
エンジニアにとって、今一番興味のある分野を学ぶ機会が与えられるというのは非常に大きな成長につながることだ。その成長を後押ししてくれる会社であれば、「機械学習について学ぶ際に数学の知識が必要だから」のような理由さえ示せれば、どんな本でも対象としてスキルアップ支援をしてくれるのではないか。対象は分類によるものではなく、本人が必要と思っていることで十分だろう。少なくともそうあるべきだと私は思う。
余談
…ところで、技術書典というオンリーイベントがあるらしい。 ここの「技術書とはなんですか」というページには、
>数学、化学、法学など各種専門分野、通信、アルゴリズムなど各種工学分野も技術書の範疇と考えています。 >周辺領域でも構いません。関連性の高いものが喜ばれます
などと、幅広いジャンルの本を対象としているようで、とても面白そう。行ってみたい。
余談②
※Qiitaはやらないで全部ブログに書こうと思っていたのだけれど、コマンドなど完全にエンジニア対象とした専門的な内容のものはQiitaに書くことにした。対象とする読者層がぶれるのを防ぐため。こちらです。